「俺の研究室なんだから、言うことを聞け!君の論文なんて、ボツにしてもいいんだよ?」
指導教授からこんな風に言われて、震え上がった経験はありませんか?
研究室に土日も缶詰めにされる、教授の機嫌次第で卒業が左右される、私生活まで干渉されて恋愛禁止を言い渡される…
私も実際に、大学院生時代に指導教授から「研究者になりたいなら、俺の言うことを絶対に聞け。嫌なら他の大学に行け」と言われ、2年間にわたって理不尽な扱いを受けました。
当時は「これが普通の指導なんだ」と思い込んでいましたが、今振り返ると明らかな権力の濫用でした。
「教育の一環」
「昔はもっと厳しかった」
「これも修行のうち」
そんな言葉で片付けられがちですが、教育現場だからといって何をしても許されるわけではありません。
そんな「アカデミックハラスメント(アカハラ)」の実態と、学生・研究者としての尊厳を守りながら問題を解決する方法を、実体験をもとにお伝えします。
【参考記事】【完全版】職場の〇〇ハラスメント20選|種類・事例・対処法まとめ
なぜ教育現場でハラスメントがこんなに深刻になるのか?
教授の絶対的権力構造
私がアカハラで最も苦しんだのは、「逃げ場のなさ」でした。
卒業・進路を完全に握られている状況
教授は学生の成績評価、論文審査、推薦状作成、就職紹介のすべてをコントロールしています。
「気に入らなければ卒業させない」という脅しが現実的な恐怖として機能するのです。
私の場合、修士論文の中間発表で教授と意見が衝突したところ、「その態度なら今年の修了は諦めろ」と言われました。
就職も決まっていたのに、一言で人生が狂わされる恐怖を味わいました。
密室での指導という名の支配
研究室という外部からの監視が届きにくい空間で、長時間のマンツーマン指導が行われます。
そこで何が起きているかを第三者が把握することは困難です。
「師弟関係」という古い価値観の悪用
「先生の言うことは絶対」「厳しくするのは愛情」という伝統的な価値観が、現代でも一部の教員によって権力濫用の正当化に使われています。
アカデミック界特有の構造的問題
競争激化による余裕の消失
研究業界の競争が激化し、教員も常にプレッシャーにさらされています。
そのストレスが、立場の弱い学生に向けられることが多いのです。
閉鎖的なコミュニティ
学会や研究コミュニティは狭い世界で、一度「問題児」のレッテルを貼られると、その後のキャリアに深刻な影響が出る可能性があります。
そのため、被害を受けても声を上げにくい構造があります。
放置されると起きる深刻な影響
アカハラが野放しにされると:
学習・研究意欲の完全な喪失
私も一時期、研究すること自体が嫌になって、大学院を辞めることを真剣に考えました。
本来なら知的好奇心を満たすはずの学びが、苦痛の時間に変わってしまいます。
メンタルヘルスの深刻な悪化
私の同期で、うつ病を発症して休学した人が3人いました。
みんな異なる研究室でしたが、共通していたのは指導教員との関係の悪化でした。
優秀な人材の早期離脱
アカハラが原因で大学院を辞める学生の多くは、実は優秀で将来有望な人材です。
これは学術界全体にとっても大きな損失です。
教育現場での権力乱用がハラスメントになるケース
私が経験した明らかな権力濫用
研究・学習の妨害
- 正当な理由なく研究テーマの変更を強要される
- 研究成果を教員が無断で自分の名前で発表する
- 論文審査を感情論で否定され、客観的な指導を受けられない
- 他大学や企業との共同研究を個人的感情で妨害される
不当な労働の強制
- 研究とは無関係な教員の私用(引っ越し手伝い、家事)を強制
- 土日・深夜まで研究室に拘束される
- 学会準備という名目での雑用作業の押し付け
- アルバイト禁止により経済的に追い詰められる
人格否定・精神的虐待
- 「君は研究者に向いていない」など全人格否定
- ゼミで他の学生の前での公開羞辱
- 継続的な人格攻撃を含む長時間説教
- 意図的な無視による精神的圧迫
私生活への過度な干渉
- 恋人との交際を理由もなく禁止される
- 私的な外出や交友関係に制限をかけられる
- 家族との時間も「研究に集中しろ」と否定される
- 趣味やサークル活動を「無駄」として禁止される
法的・教育倫理的に問題となる根拠
教育基本法違反
教育基本法では「教育の機会均等」と「人格の尊重」を定めています。
アカハラはこれらの原則に明確に反します。
学校教育法違反
学生が適切な教育を受ける権利を妨害することは、学校教育法の趣旨に反します。
人権侵害
学生といえども基本的人権を持つ個人です。
教育の名の下に人権を侵害することは許されません。
私が実際に試した解決法とその効果測定
証拠収集と客観化
アカハラ行為の詳細な記録
私が作成した「指導記録ノート」:
- 日時:2022年4月15日 14:00-17:30
- 場所:教授の研究室
- 内容:研究計画について30分説明後、「君には無理だ」と全否定。その後3時間の説教
- 証人:研究室にいた博士課程の先輩(後で確認取れる)
- 影響:その日は食事も取れず、夜も眠れなかった
効果:★★★★★
具体的な記録があることで、学内相談窓口での相談が具体的にでき、迅速な対応につながりました。
「感情的な訴え」ではなく「客観的な問題」として扱ってもらえました。
学内相談システムの活用
段階的な相談戦略
私が実践した相談の順序:
- 学生相談室への匿名相談:状況の整理と対処法の確認
- 学科主任への相談:学科レベルでの対応可能性の確認
- ハラスメント相談窓口への正式相談:公式な調査の開始
- 学部長への報告:組織としての対応要請
効果:★★★★☆
段階的にエスカレートすることで、問題の深刻さが理解され、最終的には指導教員の変更が実現しました。
ただし、解決まで8ヶ月かかりました。
同期・先輩との連携
被害者同士のネットワーク構築
同じような被害を受けている学生5人で「研究室環境改善グループ」(非公式)を結成しました。
活動内容:
- 各自の被害状況の共有と記録
- 効果的な対処方法の検討
- お互いの精神的支援
- 学内への集団要望書の提出
効果:★★★☆☆
一人では言いにくいことも、複数人での要望なら大学側も聞く耳を持ってくれました。
ただし、逆に「結託して教員を攻撃している」と見られるリスクもありました。
外部機関への相談
文部科学省への通報
学内での解決が困難だった時期に、文部科学省の相談窓口に連絡しました。
提出した資料:
- 1年間のアカハラ記録
- 学内相談の経緯と対応状況
- 他の被害学生の証言
- 大学の対応の不備を示す証拠
結果:文科省から大学に「指導」が入り、全学的なアカハラ防止体制の見直しが行われました。
意外だった発見:アカハラ教員の心理
問題解決後、その教授(すでに退職)と偶然会った時に聞いた、驚くべき本音:
「実は指導方法がわからなかった」
「自分も昔、厳しい指導を受けて育ったから、同じようにやるのが当然だと思っていた。でも、どこまでが適切な指導で、どこからがハラスメントなのかがわからなかった」
「学生との距離感に迷いがあった」
「親身になって指導しようと思うほど、プライベートにも踏み込んでしまった。でも、それが学生にとって負担だとは気づかなかった」
「自分のプレッシャーを転嫁していた」
「研究費の獲得や論文発表のプレッシャーが強くて、そのストレスを学生にぶつけてしまった。今思えば、完全に八つ当たりだった」
つまり、多くの場合は「悪意」ではなく「指導スキルの不足」と「ストレス管理の失敗」だったのです。
ただし、それが免罪符になるわけではありません。
アカハラから身を守る実践的戦略
予防的な関係構築
指導開始時の期待値調整
新しい指導教員との関係が始まる時に、以下を確認しておくことが重要:
- 研究指導の方針と頻度
- 連絡可能な時間帯と方法
- 研究以外の業務(雑用)の範囲
- プライベートとの境界線
複数の相談先の確保
支援ネットワークの事前構築
問題が起きる前に、以下の関係を築いておく:
- 他の教員(副指導教員、学科主任など)
- 先輩学生や同期との信頼関係
- 学生相談室やカウンセラーとの接点
- 学外の研究者ネットワーク
代替進路の検討
最悪の場合の選択肢の準備
- 指導教員変更の可能性
- 他大学への転学・編入
- 修士で修了して就職
- 一時休学による状況整理
まとめ:学問の自由は人格否定とは両立しない
「昔の教育はもっと厳しかった」「これも教育の一環だ」という言い訳はもう通用しません。
真の教育者は、恐怖ではなく尊敬で学生を導くものです。
今すぐできること:
- 不適切だと感じた指導や発言を日時と内容を記録する
- 学内の相談窓口(学生相談室、ハラスメント窓口)を確認する
- 同じような経験をしている人がいないか情報収集する
私の経験では、アカハラの7割は「指導教員と学生の認識のずれ」が原因でした。
多くの教員は学生を傷つけるつもりはなく、単に適切な指導方法を知らないだけです。
だからこそ、被害者が声を上げることで、教育環境全体が改善されることがあります。
「先生に逆らえない」「卒業できなくなったらどうしよう」という不安はよくわかります。
でも、あなたには「学ぶ権利」「研究する権利」「人として尊重される権利」があります。これらは誰にも奪われてはいけない基本的な権利です。
勇気を出して声を上げることが、あなた自身を救うだけでなく、未来の後輩たちを救うことにもつながります。
一人で悩まず、適切な支援を求めながら、あなたの学問的な夢を諦めずに追い続けてください。
学問の世界は本来、知的好奇心を満たす素晴らしい場所のはずです。
そんな環境を一緒に取り戻していきましょう。
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