「お母さんの介護ですか…大変ですねぇ。でも、みんなにしわ寄せが来るのも困るんですよね」
母の認知症が進行し、介護休暇を申請した時の上司の一言。
法律で認められた権利を使っただけなのに、まるで迷惑をかけているかのような言い方でした。
「また早退？」
「いいよね、早く帰れて」
同僚からの何気ない一言も、毎日続くと心に刺さります。
介護は24時間365日続くもの。
職場では限られた時間で効率よく働いているつもりなのに、なぜこんなに理解してもらえないのでしょうか。
実は私も、父の介護をしながら働いていた3年間、まさにこのような「ケアハラスメント」に悩まされました。
【参考記事】【完全版】職場の〇〇ハラスメント20選｜種類・事例・対処法まとめ
この記事では、その経験をもとに、介護と仕事の両立で直面する現実と、職場での理不尽な扱いから自分を守る具体的な方法をお伝えします。
なぜ職場で介護への理解がこんなに得られないのか？
介護の現実を知らない人の思い込み
私が最も辛く感じたのは、周囲の人たちの「介護に対する誤解」でした。
「計画的にできるもの」という勘違い
「事前にわかっていることなら、もっと早く相談してくれれば…」と言われたことがあります。
でも介護の現実は違います。
父が転倒して救急搬送された時、病院から電話があったのは平日の午後3時。
「計画」なんてできるわけがないんです。
「一時的なもの」という認識
「お父さんの調子が良くなったら、また普通に働けますよね？」という発言も何度か聞きました。
でも実際は、認知症や慢性疾患の介護に「終わり」は見えません。
私の場合は結局、父が亡くなるまでの4年間続きました。
「施設に預ければ解決」という単純化
「施設に入れちゃえばいいのに」と軽く言われることもありました。
でも待機者数百人、入所できても月15万円の費用…。
そんな現実を知らずに言われても、困惑するしかありません。
職場に根強い「家庭より仕事優先」の価値観
私が勤めていた会社では、まだまだ「仕事が最優先」という空気が強く残っていました。
「昔はみんな我慢していた」論
50代の課長から「俺たちの時代は、親の介護なんて理由で休む奴なんていなかった」と言われました。
でも実際は、その世代には専業主婦の母親がいて介護を担っていた。
共働きが当たり前の現在とは状況が全く違うのです。
介護＝女性の仕事という固定観念
「お母さん（私の妻）がやればいいじゃない」と平然と言われたこともあります。
でも父は私を求めていたし、妻にも仕事がある。性別で役割を決める時代ではないはずです。
職場が受ける深刻な影響
介護ハラスメントを放置すると、こんな問題が発生します：
優秀な人材の介護離職
私の同期で、介護を理由に退職した人が3人います。
みんな有能で、会社にとっても大きな損失でした。
介護離職は年間約10万人。
これは企業にとっても社会にとっても深刻な問題です。
職場全体の士気低下
「将来自分も同じような状況になったらどうしよう」という不安が職場に広がり、長期的なモチベーション低下につながります。
介護への嫌がらせがハラスメントになるケース
法的に保護された権利の侵害
介護ハラスメントは、育児・介護休業法で明確に禁止されています。
私が経験した中で、明らかに法律違反だったケース：
制度利用への妨害
「介護休暇なんて取ったら、他のメンバーに迷惑がかかる」と直属の上司に言われ、申請書を受け取ってもらえなかったことがありました。
これは法的権利の行使を妨害する違法行為です。
不利益な取扱い
介護休暇を取り始めてから、重要なプロジェクトから外されました。
人事評価でも「チームワークに課題あり」と書かれ、昇進の機会を失いました。
精神的な嫌がらせ
毎朝の朝礼で「○○さんは今日も早退予定ですので、皆さんでカバーお願いします」と名指しで発表されました。
配慮のつもりかもしれませんが、毎回だと精神的に参ってしまいます。
企業が認識すべき介護支援の重要性
法的義務だけでなく、企業にとってもメリットがあることを、私は人事部に以下のデータで説明しました：
- 介護離職による損失：1人当たり平均1,200万円（リクルート調査）
- 介護支援制度充実企業の離職率：平均より30%低い
- 従業員満足度と生産性の向上効果
私が実際に試した対処法と効果
制度を最大限活用する戦略
介護に関する制度の完全把握
まず、会社の就業規則と法的権利を徹底的に調べました。
私が活用できた制度：
- 介護休業（93日間）：父の手術・入院時に集中的に利用
- 介護休暇（年5日）：通院付き添いや役所手続きに利用
- 時短勤務（3年間）：毎日1時間短縮で18時退社
- フレックスタイム：朝の通院に合わせて出社時間調整
効果：★★★★☆
制度を知っているだけで、周囲への説明に説得力が増しました。
「法的権利です」と言えることで、反論されにくくなります。
コミュニケーション戦略の改善
状況の「見える化」
私が作成して効果があったもの：
- 介護状況説明書：父の病状、必要なケア、今後の見通しをA4で1枚
- スケジュール共有表：通院日、デイサービス予定、緊急時連絡先
- 業務引き継ぎマニュアル：私が不在時の対応方法を詳細化
効果：★★★★★
「何をしているかわからない」という不安が解消され、同僚の理解が格段に向上しました。
感謝と配慮のバランス
介護休暇を取る時は必ず以下のセットで伝えました：
「申し訳ございません。父の通院のため、○日の午後休暇をいただきます。△△の件は×さんに引き継ぎ済みです。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんが、よろしくお願いします」
感謝を示しつつ、しっかりと準備していることをアピールしました。
外部サポートシステムの構築
地域包括支援センターとの連携
最も重要だったのは、プロの介護支援を受けることでした：
- ケアマネージャー：介護計画の作成と調整
- デイサービス：週3日、父の日中ケア
- ヘルパーサービス：週2回の生活支援
- ショートステイ：私の出張時の一時預かり
効果：★★★★★
「一人で全部やらなければ」という思い込みから解放されました。
職場への影響も最小限に抑えられました。
限界を感じた時の選択肢
人事部との率直な相談
状況が悪化した時期に、人事部長と1対1で面談しました。
準備したもの：
- 介護の具体的状況（医師の診断書含む）
- 法的権利の確認資料
- 他社の介護支援制度事例
- 私の仕事への影響最小化案
結果として、社内初の「介護支援制度検討委員会」が設置され、全社的な改善につながりました。
意外だった発見：介護経験者のネットワーク
この問題で悩んでいる時、社内で同じような経験をしている人を探してみました。
すると、意外にも多くの人が似たような悩みを抱えていることがわかったんです。
隠れた介護経験者たち
- 営業部の山田さん：母親の認知症介護中
- 経理の佐藤さん：義父の車椅子介護中
- 開発チームの田中さん：妻の実父介護中
みんな、職場では言い出せずに一人で抱え込んでいました。
非公式サポートグループの結成
5人で「介護と仕事の両立情報交換会」を月1回開催するようになりました。
情報共有だけでなく、精神的な支えにもなりました。
会社への提言活動
グループで人事部に提案書を提出し、以下の制度実現につなげました：
- 介護セミナーの定期開催
- 介護経験者によるピアサポート制度
- 管理職向け介護理解研修
介護と仕事を両立するための実践的コツ
時間管理の工夫
効率化できた具体的な方法
- 朝型シフト：6時起床で2時間の介護対応→8時出社
- 昼休み活用：病院への電話連絡、介護用品購入
- 移動時間活用：電車内でのメール処理、資料作成
心理的負担の軽減
完璧主義からの脱却
「100%の介護と100%の仕事」は不可能だと受け入れることから始まりました。
「今日できることをやる」という発想転換が、精神的にとても楽になりました。
罪悪感との向き合い方
職場に迷惑をかけている罪悪感と、父に十分なケアができていない罪悪感。
この「ダブル罪悪感」が最も辛かったです。
カウンセラーに相談して学んだのは「完璧でなくても、ベストを尽くしていれば十分」ということでした。
まとめ：介護は人生の一部、恥じることではない
介護は、多くの人が人生で直面する現実です。
それを理由に職場で不当な扱いを受けることは、決してあってはいけません。
今すぐできること：
- 自分の会社の介護支援制度を人事部に確認する
- 介護の状況を職場に適切に説明する準備をする
- 地域の介護支援サービスについて情報収集する
私の経験では、問題の9割は「情報不足」と「コミュニケーション不足」が原因でした。
制度を知り、状況を説明し、周囲の理解を得る努力をすることで、多くの問題は改善されます。
ただし、それでも理解が得られない場合は、遠慮なく人事部や外部機関に相談してください。
あなたには介護をしながら働く権利があります。
介護は終わりの見えない長いマラソンです。一人で背負い込まず、制度を活用し、周囲の支援を得ながら、自分らしいペースで進んでいきましょう。
あなたの頑張りは、必ず家族にも職場にも伝わるはずです。
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